この記事ではスマートベータ理論について、自分なりに整理した内容をまとめた内容を初心者にもわかりやすく解説を試みています。この記事では、スマートベータとは何か?を様々な周辺知識を補いながら説明したいと思っています。スマートベータはインデックス投資を説明するには、「ベータ」「システマティックリスク」などいくつか前提知識の理解が必要です。書籍「ウォール街のランダム・ウォーカー」をはじめとした書籍や論文を元にスマートベータを解説してみたいと思います。
スマートベータ理論とは?
スマートベータ理論とは、インデックス投資よりもリスクを抑えながら、インデックス投資以上のパフォーマンスを求めるポートフォリオの考え方です。スマートベータは、インデックス投資よりも賢い運用を目指す考え方ということになります。
(一般的に、多くの投資家は長期目線で、市場平均(つまりインデックス投資)に勝つことは出来ないと言われています。)
スマートベータは、ファクター・ベース運用とも言われており、例えば、国、業種、割安度、ROE、配当利回りなど様々なファクターを取り入れることで[1]、インデックス投資以上のパフォーマンスを目指しています。
ベータとは?
まずはベータを知っておきましょう。株式投資で時々目にするこのベータは、市場平均の値動きに対する、個別銘柄の値動きのリスクを数値化したものです。
市場平均のベータは1となり、個別銘柄のベータが2の場合、市場平均が10%上昇した場合、個別銘柄は20%上昇し、市場平均が10%下落した場合、個別銘柄は20%下落するといったように、リスクの大きさを市場平均に対して表したものです。
表1:ベータの数値に対する個別銘柄の動き
ベータ | 市場平均指数 | 個別銘柄 |
---|---|---|
0.5 | 10%上昇(下落) | 5%上昇(下落) |
1 | 10%上昇(下落) | 10%上昇(下落) |
2 | 10%上昇(下落) | 20%上昇(下落) |
システマティック・リスク
ちなみにこのベータは、「システマティック・リスク」を数値化したものとも言いかえられます。システマティック・リスクとは、リターンの変動性のうち、株式市場全体が変動する時に、すべての株式がある程度一緒に動く傾向があるところから生まれるリスクのことです。
例えば、分散投資をすすめることで、個別銘柄固有のリスク(非システマティック・リスク)は低減することはできますが、市場全体の値動きに対するリスクに対して分散投資の効果が及ばなくなります。
引用:ウォール街のランダム・ウォーカー
ベータとリターンの関係
ここからが重要な部分です。我々の直感的な感覚では、あるポートフォリオの「ベータの値が大きい」つまり市場平均の値動きに対してリスクが大きい場合、リターンは大きくなるという印象があります。また逆に「ベータ値が小さい」つまり市場平均の値動きに対してリスクが小さい場合、リターンは小さくなるという印象があります。
これを実際に検証した研究論文があるのですが、この結果によれば、ベータ値とポートフォリオのリターンの間に相関はないということが分かったのです。Fama and French Study,1992
もしベータ値とリターンに関係がないならば、よりベータ値が低いポートフォリオで運用すれば、インデックス投資よりもリスクを抑えながら、インデックス投資以上にリターンを高めることができるのではないか?
それこそが、スマートベータ理論の考え方なのです。
シャープ・レシオ
スマートベータ理論における、パフォーマンスを評価する方法として利用されているのが、シャープ・レシオです。これはCAPMモデルを提唱した一人であるウィリアム・シャープが考案したものからその名前がついています。
シャープレシオ = ( ポートフォリオの収益率 – 無リスク資産の収益率 ) / ポートフォリオ収益率の標準偏差
標準偏差は株価のバラツキ、すなわちリスクを表していますので、リスクが少ないほど、ポートフォリオの収益率が高いほど、シャープレシオが高くなるということになります。
スマートベータ理論は、市場平均(つまりインデックス投資)よりもリスクを抑えながらリターンを高めたいという考え方ですので、このシャープ・レシオが高まる方法を検討するということになります。
具体的にどのようなポートフォリオになる?
冒頭でファクターという話をしましたが、効果的なポートフォリオを作るには、複数のファクターを含める必要があります。単一のファクターだけではインデックス投資を下回るという結果も出ているようです。具体的には以下のようなファクターが取り入れることができます。
・サイズ(小型株)
・バリュー(割安銘柄)
・ボラティリティ(リスク量の低い銘柄(群))
・モメンタム(株価が上昇基調の銘柄)
・クオリティ(健全な財務体質を持つ企業)
・配当(高配当の銘柄)
・自社株買い(自社株買いを行っている銘柄)
スマートベータのメリット、デメリット
メリット
・リスクを低減することができる
インデックス投資に比べてリスクを抑えることが運用を目指すことが可能です。
・インデックス投資以上のパフォーマンスが得られる可能性がある
実際にインデックス投資以上のパフォーマンスを上げることは可能のようです。
・一般的なアクティブファンドに比べて経費率が低い
一般的なアクティブファンドでは、頻繁に銘柄を入れ替えることで、パフォーマンスを上げる手法をとりますが、銘柄選定や頻繁な売買により手数料が高額になります。それに比べてスマートベータを採用したポートフォリオでは、売買の頻度が低いために、経費率を抑えられる特徴があります。
デメリット
・インデックスを上回る成績になるかはわからない。
スマートベータによるポートフォリオは、過去の成績を元に評価されますので、将来的な収益期待から外れることが起こりえます。つまり車の運転に例えれば、バックミラーを見ながら運転するようなものという解釈もあります。
・インデックス投資より手数料が高い
アクティブファンドに比べれば、手数料は抑えられますが、インデックスファンドに比べれば手数料が高くなります。
・先回り投資される
スマートベータは、一定のルールに基づいて運用されます。日本の年金を運用するGPIFのように、運用ルールが多くの投資家に知られていますので、事前に先回り投資して、買う前に値上がり、または下がる前に値下がりしてしまう可能性があるということです。
スマートベータが利用されている事例
年金ファンド
スマートベータは年金運用のファンドで多く取り入れられているようです。
・GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)
・TIAA(全米教職員年金保険組合)
・CalPERS(カリフォルニア州職員退職年金基金)
この様に世界の年金運用でスマートベータが採用されているようです。
ロボアドバイザー
日本でもスマートベータを採用したポートフォリオを提供するサービスが登場しています。
・THEO
ETF
それぞれどのようなファクターを取りれているかで別れているのですが、ここでは具体的な銘柄の例を紹介します。特に国内のスマートベータETFとしては、JPX日経インデックス400に連動するETFが銘柄も豊富にあります。(網羅性は意識していません。)
【日本株】
・[1477]iシェアーズMSCI日本株最小分散ETF
・[1364]iシェアーズ JPX日経400ETF
・[1478]iシェアーズ MSCI ジャパン高配当利回り ETF
・[1477]iシェアーズ MSCI 日本株最小分散 ETF
・[1577]NEXT FUNDS 野村日本株高配当70連動型上場投信
・[1591]NEXT FUNDS JPX日経インデックス400連動型上場投信
※JPX日経400のレバレッジ商品
・[1467]JPX日経400ブル2倍ETF(レバレッジ)
・[1468]JPX日経400ベアETF(インバース)
・[1469]JPX日経400ベア2倍ETF(ダブルインバース)
【米国株】
・[DVY]iシェアーズ 好配当株式 ETF
まとめ
今回のこの記事を作成するにあたり色々と情報をあたりましたが、これといった明確なスマートベータ戦略というのはないようにも思えました。というのも、スマートベータは基本的に過去の値動きからバックテストして作られることになりますので、将来的なパフォーマンス向上という点では、まだまだ発展途上のような印象です。
とはいえ、リスクを抑えつつ、パフォーマンスを上げる効果は期待できそうですので、スマートベータを元にポートフォリオを組んでみるのもいいかもしれません。
ご意見や、間違いがあれば、是非コメント頂ければと思います。
[1]・・・年金資産運用におけるスマートベータを考える[2]・・・世界の年金基金で進むスマートベータの導入
[3]・・・スマートベータ(Black Rock)