経済の基礎を学ぼうと思って手にとった本でしたが、この本の経済学の展開は主に現代貨幣理論に基づいています。
そういう意味で、今多くの経済学に書かれている内容とは、論理展開がかなり異なっているので、はじめて現代貨幣理論にふれる方はかなり戸惑うのではないでしょうか?(私もその一人でした。)
ただ現代貨幣理論を理解する上では、非常にその仕組をわかりやすく説明してくれていますので、(是非はともかく)現代貨幣理論を知りたいという方には非常におすすめできる本です。
書籍に書かれている内容の私なりの解釈を書籍の紹介も兼ねて書いてみたいと思います。
現代貨幣理論とはなんなのか?
現代貨幣理論を説明する上で、その対立構造を把握すると理解が深まります。その対立となるものが、現在の主流派経済学とも言われる新古典派経済学による経済の考え方です。今の日本やアメリカの経済政策はこの主流派経済学に基づいています。
現代貨幣理論と主流派経済学では「貨幣とはなにか?」という位置づけが大きく異なっています。主流派経済学では金本位制という歴史もあったように、交換手段として貨幣を捉えています。交換手段という考えに基づけば、政府の財政において、収支はバランスさせなければならないという考えになります。これは一般均衡理論という考え方に基づいています。
一方で現代貨幣理論では、「貨幣は負債である」という信用貨幣論がベースになっています。信用貨幣論においては、貨幣は例えば銀行の預金通帳に数字が記入されれば、貨幣は創造された(信用創造)されたという考えの元で、どれだけも貨幣を生み出すことは可能であるという考えです。
これは国の財政に置き換えると、財政赤字をどれだけ出しても、政府が赤字を返済するという意思があれば、貨幣はいくらでも生み出せる(信用創造できる)ので問題ないということになります。財政赤字を拡大させるとなると、国債を大量に発行することになり、結果として世の中に出回る資金量は減りますので、金利も上昇し、ハイパーインフレが起こるのではないか?という批判が思いつきますが、2013年以降、黒田総裁の元、日銀による大幅な金融緩和で赤字が増えた(国債が増えた)にも関わらず国債金利は0%近くで全く金利は上がっていないという事実で筆者は反論しています。
需要と供給に対する考え方の違い
別の観点として、現代貨幣理論と主流派経済学の大きな違いとして、需要と供給の考え方の違いがあります。
主流派経済学では、「供給を生み出せば、需要は生まれる」という考え(一般均衡理論、セイの法則)に基づい資金供給を増やそう考え方。現代貨幣理論では、「需要の増加が資金の需要を生み、貨幣が供給される(信用創造)」という考え方になっています。
前者に基づく財政がまさにこの10年間以上行われて来た日銀の政策で、マネタリーベースを増やすという方針は資金供給を増やして需要を増やそうという考え方に基づきます。筆者の批判としては、「結局マネタリーベース増やしてもインフレ起こってないよね?ってことは間違ってるよね?」という考えです。
後者の場合の財政を行うとした場合、財政赤字の拡大、国債発行、公共事業の創出などの対策が考えられます。実は1930年代のアメリカのルーズベルト大統領の元で行われたニューディール政策は、デフレ対策としては正しいやり方であったと評しています。
現代貨幣理論って正しいのか?
確かに現代貨幣理論で説明することで、平成以降のデフレと様々な金融政策があまり効果を発揮していない(デフレから脱却出来ていない)という点において、かなり納得感のある説明がなされています。
また、「貨幣とはなにか?」という点で、すでに金本位制ではなく、管理通貨制度になっている点において、貨幣は信用創造されていますので、今になって一般均衡理論を貫き通すのは確かに無理があるように感じます。
要するに現在の主流派経済学に対する批判としては、確かにそうだと思わせる部分が多いと思いますが、だからといって現代貨幣理論が正しいというところまで行くのは論理が飛躍しすぎているように感じました。
実際にアメリカを始めとした多くの経済学者や財政担当者は、現代貨幣理論に対して批判的な見方をしています。(主流派経済学からすれば当たり前?)
現代貨幣理論が正しいとするにしても、国レベルでの壮大な実験が必要になることになりそうです。現代貨幣理論は、現在の経済学の問題点を鋭く指摘している一方で、「批判することと実際に自分でやることは違うよね?」という疑念は残っているような気がします。
そもそも、今の経済は貨幣を交換できるものという前提で成り立ち過ぎていて、信用貨幣と考え直した場合に、すべての経済がそれで成り立つのか?という懸念が残るような気がします。今の経済をみれば、商品貨幣論と信用貨幣論が混ざっているようにも見えます。
だらだらと書いてしまいましたが、現代貨幣理論がどのような考え方に基づいているかを知る上で非常に分かりやすい本ですので、賛否は別にしても経済学の知識として一読することをおすすめします。